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【4/26 動画更新】【開催報告】ステアラボ人工知能シンポジウム 2019 「Acadexit: 大学・研究機関から飛び出す研究者たち」 Symposium Report: STAIR Lab AI Symposium 2019

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去る2019年2月23日(土)、フクラシア丸の内オアゾにて、ステアラボ人工知能シンポジウム2019「Acadexit: 大学・研究機関から飛び出す研究者たち」を開催しました。

人口減少・少子高齢化に直面する我が国において、大学は (少子化によって) 運営環境への影響が早い段階で生じてくる一方で、社会からは問題解決を期待されるという難しい状況に立ちつつあります。このような状況の中、大学や研究機関 (いわゆる「アカデミア」) で活躍してきた第一線の研究者が、ベンチャー企業を起業し、あるいは、ベンチャー企業に参画して、そこへ研究の場を移すという事例が現れてきています。これまで、大学や大学院を修了した学生がベンチャー企業に就職したり、研究者が所属機関に籍を残したままベンチャー企業を立ち上げたりする等の例は良くありましたが、大学や研究機関での研究職をなげうってベンチャービジネスへ転出して研究を行い、また発展させていくという状況は、我が国ではあまり見られなかった現象ではないかと考え、我々はこの現象を “Acadexit (アカデグジット)” と呼ぶことにしました。

今回我々は、実際に Acadexit した優れた人工知能・機械学習研究者を 3 名をお招きし、自身の最新の研究内容・動向を紹介して頂きつつ、アカデミアに一体何が起きているのかを議論することを目的として、ステアラボ人工知能シンポジウム2019「Acadexit: 大学・研究機関から飛び出す研究者たち」を開催しました。

シンポジウムの前半は 3名の研究者にそれぞれ自身の研究の紹介と Acadexit についての経緯等を講演頂き、後半はパネルディスカッション形式で、大学・研究機関とベンチャー企業の違いや共通するところ、また海外の状況との比較など、オフレコで様々な議論を行いました。

山口光太氏 (株式会社サイバーエージェント AI Lab) の講演 (スライド動画) では、服飾と人の画像認識等の、いわゆる「ファッション系の画像認識」のご自身の研究成果のご紹介や、現在取り組んでいるデジタル広告のクリエイティブ研究についてご紹介頂きました。また、米国 Stony Brook University での Ph.D 学生時代に当時の指導教官からの提案でファッション系の画像認識の研究を始めたこと、JREC-IN で見つけた公募に応募して東北大学で助教のポジション (任期最長 6 年) を得たこと、その後、任期の関係で次の職を探していたところ、アカデミアを含む複数のオファーの中から、転職エージェント経由でオファーのあった現職を「自身の強みを活かせそう」という理由で選んだこと、前職と現職の業務内容の比較などが紹介されました。

牛久祥孝氏 (オムロンサイニックエックス株式会社) の講演 (スライド動画) では、画像や動画のキャプション生成やキャプションからの画像生成、画像に関する質問への応答等の、いわゆる「視覚と言語の融合研究」の動向について、深層学習技術を応用することでここ 3 〜 4 年の間に急激に発展してきたことや、CNN や RNN といった、画像処理や自然言語処理等に共通に使える技術が台頭したことで研究への参入障壁が低下したことなどが紹介されました。またこのような状況において前職の東京大学から Acadexit した理由としては、個人的なステップアップや我が国の情報科学研究周辺の厳しい状況 (国際的競走の中で劣勢にあること)、更には我が国における大学に対する危機感 (交付金減少と外部資金獲得偏重に伴う疲弊) や新たなキャリアスタイルの模索の 4 つが紹介されました。

瀬々潤氏 (株式会社ヒューマノーム研究所) の講演 (スライド動画) では、機械学習の新規手法の研究や生命科学の研究者と緊密に連携して行ってきた機械学習を用いたデータ解析の研究など、ご自身の研究の来歴をご紹介頂きました。次いで、大学・公的研究機関・企業それぞれで研究活動が行われているが、評価の方向性 (理論的か実際的か、個人かグループか、長期的か短期的か、公益か私益か、教育か実践か、グローバルかドメスティックか) が異なること、ただしその方向性も揺らいできていることなどが指摘されました。その背景として学術研究における恐ろしいゲーム・チェンジが起きつつあり、大学・行政・企業に様々な問題が生じていて状況はシンプルではないといった指摘がありました。このような状況の中で起業に至った経緯として、研究を発展させて社会実装を進めるには競争的研究資金が更に必要だが、一方で付随する審査会や報告会等の業務で手一杯であること、テニュアなメンバーを増やせればもっと競争的研究資金を取る機会が増えるが、前職の産業技術総合研究所では残念ながらそういう状況には無かったこと、このため、自ら会社を起業して、会社という形でアカデミックな社会実装研究を行うという道を選択したということなどが紹介されました。

後半のパネルディスカッションは、シンポジウムの後も講演者・参加者の方々に Acadexit について様々な場で議論して頂くことを意図して、あえて細かいテーマは決めずに様々な話題を取り上げて、参加者からの質問・コメント等も取り入れつつ議論することを試みました。この記事をお読み頂いている読者の皆様も是非 Acadexit について様々な場でご議論頂ければと存じます (なお、前述のとおりパネルディスカッションはオフレコで行いましたので、ここではご紹介できない興味深い内容も多々ありましたが、以下は当たり障りの無い範囲でのまとめとなっております)。

今回のパネルディスカッションでは、3名の講演者がいずれも国立大学法人や公的研究機関の出身者であるためか、大学・研究機関の中でも特に国立大学法人や公的研究機関についての議論が主となりました (残念ながら今回は我が国の私立大学についての話題・議論はほとんど出なかったので、別の機会にまた扱うことができればと考えています)。

この議論において、国立大学法人や公的研究機関で研究者と事務の相互不信・断絶が大きくなっているのではないかと感じられました。例えば(全ての大学に言えることかどうかはわかりませんが)研究者は、独法化や競争的研究資金重視化に伴い事務作業等が増加して研究業務に費やす時間が削られと感じており、本来必要ではない業務が押し付けられているのではないかとう不満・不信が根強い印象でした。また、組織内部で声をあげても一向に改善されないと感じており、閉塞感が蔓延しつつあるという印象も受けました。一方で、ベンチャー企業を自ら立ち上げた場合には、大学や研究機関でのそれよりも更に多い事務作業が発生することになったという報告もありました。ただしその場合でも、作業の必要性について納得感があり、苦にならないということでした。

また競争的研究資金について、参加者の国立大学法人の教員の方から競争的研究資金依存に伴う弊害が利益を上回っているように感じる点等についてコメントがありました。これに対して、米国は競争的研究資金が非常に盛んだが、金額が我が国とは桁違いに大きく、また人件費にあてることができるなど使途が柔軟であること、一方ドイツでは、例えばマックスプランク研究所では、競争的研究費金の獲得に費やす時間・労力があるのなら研究に専念することが推奨され、必要な資金は研究所が用意するということ等が紹介されました。欧米双方で共通するのは、競争的研究資金の使途が研究者の裁量に任される部分が我が国と比べて非常に大きい点という指摘もありました。

企業が学術研究を行うことの意義については、長期的な視点で事業に資することはもちろん、より短期的な視点でも、優秀な人材の確保や広告の面で影響があるという指摘がありました。一方で負の側面として、一流の論文誌であっても単なる広告の場として企業に利用されつつある現状、例えば企業が一流論文誌の編集者を採用している事例などが紹介され、大学・公的研究機関としてはこれに対抗しなければならないという意見がありました。一部企業がグローバル化・巨大化し大学・公的研究機関等の公共部門を大きく上回る力を持つようになった現代において、パワーバランスの回復のために、大学の企業化・企業の公益化が社会から陰に陽に要請されているのではというような意見もありました。その他関連して、参加者の大手メーカーの方から、若手社員の離職傾向についての質問・コメントなどがありました。

シンポジウム全体での講演・議論を通して、大学には大学にしかできないこと、公的研究機関には公的研究機関にしかできないこと、企業には企業にしかできないことがあり、時と場合によってどこで研究するのがベストかは変わってくるので、研究者はその時々でベストな場所で研究するのが良いし、またそれを安心・納得して実現できるような環境を作って行けば、活気・活力のある社会になるのではないかと感じました。 実際に米国では、研究がビジネスになると思えば起業したり企業へ移ったりし、事業が一段落したら大学へ戻るという研究者もいるという報告がありました。また、最前線の研究では複数の機関 (大学・研究機関・企業等) が連携して研究プロジェクトを進めることが一般化してきているという指摘もありました。

We held STAIR Lab AI Symposium 2019 on Feb. 23, 2019.

The following is the talk slides (in Japanese). Please do have a look!

以下は講演スライドです。ぜひご覧ください!

デジタル広告のクリエイティブ研究について- 研究環境・キャリアの観点から – from Kota Yamaguchi

これからの Vision & Language ~ Acadexit した4つの理由 from 祥孝 牛久

企業化する大学と、公益化する企業。そして、人工知能の社会実装に向けて。(ステアラボ人工知能シンポジウム) from STAIR Lab, Chiba Institute of Technology

The following is the talk videos (in Japanese). Please do have a look!

また、以下は講演動画です。こちらもぜひご覧ください!